インプロビゼーションとは要するに即興のことだ。
私がこれにはまったのは、原田伸雄さんという福岡の即興舞踏第一人者のワークショップに始まる。
ワークショップで、床を転がり続けた私は、ある時点からトランスに陥り、声を発し始め、途中から号泣に変わり、気が付いたら原田さんに担がれ、持ち上げられてくるくる回されながら、「こわいこわいこわい!!」と金切り声をあげていた。
着替えながら私はロッカールームで大音声で歌を歌っていた。あまりに幸せそうだったんだろう。「きっとずっと歌いたかったんだね。」と友人がつぶやきあうのが聴こえる。
大変迷惑な参加者だったと思うが、本当の変化はそのあとだった。
皆でテーブルでワークショップの感想を言う場面になった。
その時私は最高の幸福感の中、いつもと全く違う自分に気が付いていた。まるで外から自分を見ているようで、言葉が頭を通らずに口から勝手に流れ出ていた。薬でもやっているようだが、それと違うのは、自分はしっかりと周囲とコンタクトをとっていたこと。それもちゃんと頭の指令を受けず、自動的に大人な応対を続けていた。
私は小さいころから脇見恐怖や視線恐怖、その他いろいろなストレスを受け続けていたが、生まれて初めて居心地のいい場所に存在した瞬間だった。見たいものを自然に瞬間で視線で追って、それはまるで、今でいう「ネドじゅんさん」の右脳覚醒の瞬間、視線がどこまでも伸びていく感覚、に近いものがあるかもしれない。
それ以来、私は即興で踊ったり声を出したりすると、簡単にそのモードに入るようになった。
原田さんたちのグループとして、土方巽の追悼イベントに出た時は面白かった。町を闊歩しながら私が発したくすくす笑いは、だんだん下卑た笑いへと変わり、パレードの全員に伝播し、皆でき〇がいのように、大笑いしながら新宿を闊歩したっけ。
あれから30年ぐらいたつだろうか。
今は意欲もすり減り、即興を探し求めることもなくなった。
「ずっとやりたかったことをやりなさい」
その本のタイトルを聞いた時、久しぶりに思い出した。
自分がその居場所にいられる場所をずっと作りたかったことを。
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